2011年3月3日木曜日

入試ネット投稿事件に関する考察


日本では、入試問題がインターネット上に投稿され、予備校生が逮捕されるという事件がおきた。これに対して、色々な意見が飛び交っている。私が注目したいのは、「カンニングで警察が逮捕はやり過ぎ」という世論。

確かに、カンニングという不正行為そのものだけに注目した場合、単にその受験生が「不合格」になるだけでなく「警察」が「逮捕」したという事実を行き過ぎ、と捉えるのは分からなくない。

官房長官が記者会見で「入試の公正性は大変重要な問題であり、公正を害するような事件は大変遺憾の極みだ」と述べたと言うが、私は「公正性が妨害された」ことよりも「インターネットが不正使用された」ことにもっと焦点をあててもよいかと思う。その上で、今回の「逮捕」は、これから先のインターネットの利用方法を真剣に考えて行く為の、いい教訓になるのではないかと思うのだ。

例えば、インターネット上に飛び交う罵詈雑言。もし同じことを街中で、誰かに面と向かって行えば名誉毀損で訴えられたり、警察に逮捕されてもおかしくない。しかし、インターネット上では、匿名を隠れ蓑に、やりたい放題だ。今回の事件で、もうひとつ印象的だったのは、インターネットの匿名性が暴かれることに少なからず驚きを覚えている人が多いことだ。スペインではまだ仕組みが整っていないが、例えばドイツでは、不正なインターネット使用が認められると、翌日か、遅くとも翌々日には警察のインターネット課の人が自宅にやって来て、罰金、もしくは逮捕もあり得るという。だから、インターネット=匿名という考えは今ではもう浸透していないそうだ。日本で圧倒的な会員数を誇るmixiは殆どの人が、匿名や本人を特定しにくいニックネームで利用しているのに対し、海外で幅を利かせるFacebookを多くの利用者が本名を使っているのは、この辺りの違いによるものかもしれない。

日本のインターネットにでのモラルの低さには目を見張るものがあるが、日本に限らず世界でも、急速なインターネットの普及によって、モラル教育が追いついていないのは事実だと思う。特に、まだ匿名性が守られている国では、「何でもあり」という発想を助長しているように思う。私より若い世代の人たちは、なおさらそうだ。

スペインでもしばしば指摘される、不正な音楽や映画のダウンロード。これを悪と感じない人は多い。先日私の友人が、甥っ子の誕生日に、スターウォーズの全DVDをプレゼントしたときの話をしてくれた。その甥っ子は、スターウォーズのキャラクターが大好きでもちろん映画も大好き。友人は甥っ子の喜ぶ顔を期待して、DVDセットをプレゼントしたのだが、その12歳の誕生日を迎えた甥っ子は、悲しそうな顔をしてこう言ったそうだ。「おじさん、申し訳ないよ、おじさんにこんなお金を使わせて」「いいんだよ、今日は君の誕生日なんだから、心ゆくまで楽しんでくれ!」「違うよ、おじさん、この映画は全部ネットでダウンロードできるんだよ、なんでわざわざお金を払わなくちゃいけないのか、僕には分からない。もったいないじゃないか。」

友人は私と同じく、音楽界に従事する人間で、音楽や映画の不正なダウンロードに関して、常に様々なメディアで警笛を鳴らして来た人だ。その彼の身内とも言える甥が、そのような考え方をしていることに、彼は愕然としたという。彼一人が頑張っても、社会全体が変わって行かなければこの流れを止めることが出来ない。熱く語る彼の言葉に、私は強い共感を覚えた。

今回の入試ネット投稿事件は、起こるべくして起こった事件だと思う。容易に想定できたこうした事件を防ぐ為の方策を考えてこなかったこと自体問題だと思うが、過ぎてしまったことをどうこう言っても始まらない。カンニングで逮捕、は確かに行き過ぎかもしれない。しかしこのことがきっかけとなり、インターネットの無法地帯の整備が始まるとしたら、我々全てのインターネット利用者にとっていい教訓となったのではないだろうか?



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