今日は、王立劇場の芸術監督ジェラルド・モルティエさんと初めて膝を交えた会食。彼が予約してくれたレストランは、以前から気になっていた、Clu 31というおしゃれなレストラン。まずは、彼の親友である、ベルリンフィルの指揮者サイモン・ラトル氏からの言付けを伝え、先日のベルリンフィル訪問の報告から。
モルティエ氏は、自分の生い立ちから芸術に関する考え方、王立劇場のオペラのあり方と変革の必要性、スペインのオーケストラにおける問題点とその打開策、そしてカラヤンの後継者としてザルツブルグの音楽祭の芸術監督として過ごした10年間の経験など、非常に興味深い話をして下さると同時に、カニサレスにはフラメンコに関する質問攻め。彼の好奇心が伺えます。
昨年の9月に、王立劇場の芸術監督に就任され、それから約半年で様々な改革を手がけてきました。まずは、王立劇場管弦楽団の改造。ヨーロッパの中では決して高い評価を受けていないこのオーケストラを、ミラノのスカラ座、パリのオペラ座に負けないオーケストラにすることを誓い、その実現に向けて尽力されています。海外から優秀なソリストを呼ぶだけでなく、スペイン人の優秀なミュージシャンを育成して、底力をあげて行く必要性を説き、300人を超えるミュージシャンのオーディションをしたことは有名です。
またフラメンコの芸術性に理解を示され、これまではフラメンコに対して閉鎖的だった王立劇場の扉を少しずつ開けようと、各界に働きかけています。王立劇場のメインイベントの1つであるニューイヤーコンサートに、アントニオガデス舞踊団と、カニサレスがフラメンコ代表としては初めての出演を果たしたのも、その事業の手始めでした。
また、スペインには、音楽教育の基盤がまったくないことを嘆かれ、子供達が王立劇場を訪問し、社会科見学を出来るようなシステムも活性化させました。このおかげで、6歳以下の小さな子供達が、先生に連れられてわいわいと王立劇場を訪問したり、12歳以下の子供達が、王立劇場でのコンサートを楽しむ場を提供したりしています。
また、スペイン人が家族を大事にする国民性だということを充分に理解された上で、ファミリーコンサートと銘打ったオペラやコンサートを開催。入場料を破格の5ユーロという低価格に設定。入場の条件は、親が子供と一緒にコンサートを鑑賞する、ということ。今年初めて開かれたファミリーコンサートは、日曜の午前中、子供連れの家族で満員だったそうです。来年のファミリーコンサートには、カニサレスも出演予定。こうした行事がどんどん増えていくと素敵です。
それにしても、就任からたった半年でこれだけスゴいことをこなされています。今年66歳。ベルギー出身で、数ヶ月前まで私たちとも英語でしか会話されなかった彼が、今夜は3時間ずっとスペイン語でこれらの複雑な話をされていました。スペイン語は毎日2時間、週末には6時間勉強されているそうです。スペインでスペインの文化に触れ、スペインの芸術家達と本音で話し合う為には、スペイン語が必須だと、彼の6カ国語目に当たる言語の習得に取り組まれています。「この年になると、なかなか覚えられなくてね、動詞の活用を1つ覚えると、人の名前を1つ忘れるんだ。もう随分動詞の活用が出来るようになったけど、おかげで顔は見覚えあるけど名前を忘れちゃった人が多くなっちゃって困るよ」と戯けてみせるあたりにも、余裕が伺えます。彼の66歳とは思えない若々しさ、バイタリティーに、私たちもたくさんのいいエネルギーを頂きました。とても素敵な夕食でした。
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